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初恋

僕には死ぬほど会いたい人がいて、それは初恋の女の子だ。
僕は小学校3年の時に転校してすぐ、
運動会の練習中に見かけた女の子に一目惚れをした。
その子のことがただただ「可愛い!」と思った。
今までにどの女の子にも思わなかった感情だった。
違うクラスだったのですぐに話したり友達になることはできなかったけど、
幸運な事にその子と僕は同じ町内だった。

当時僕が通っていた小学校は全学年が4クラスある大きな学校で、
通っている生徒の家も学校を中心に広範囲にわたっていた。
元々、昔から地元に住んでおられる方ばかりの地域だったので、
学校との関係も含め、文字通り「地域ぐるみ」の活動が盛んだった。
町ごとに児童会があって会費を徴収し、
各種子供をもてなす行事が行われた。
そのため同じ町内というのは何かと顔を合わせる機会が多く、
今にして思えばこれは重要なファクターだった。

確か転校してきたその年の、町内の小学生を対象にしたクリスマス会だ。
公民館の2階で行われたそのクリスマス会に、もちろん彼女も来ていた。
僕はどうにかして話したかったが術が無く、
何もできないまま時間だけが過ぎていった。

会の半ばに差し掛かり、
子供達に配られるケーキを誰かのオバチャンが切り始めた。
そしてそれをそばで見ていたとき、
いきなり彼女の方から声をかけられたのだった。
話しかけるという明確な意思を持った会話ではなかったこともあったし、
とにかく驚きのあまり何も返せなかっのだが、とても嬉しかった。
僕はコソコソと逃げたような記憶がある。
非常に情けなかった。

そこから記憶は断片的になるのだが、
それが最初の接触で僕たちは仲が良くなっていく。
その過程を鮮明に覚えていないのはとても残念だが、
休み時間に廊下で会ってふざけあったり、
これまた町内ごとに別れて行われた避難訓練では、
先生の話も聞かずにしゃべり、
夏休みの小学校のプール開放日には一緒に泳いで遊んだ。
町の納涼祭のときの、彼女の浴衣姿は殺人的に可愛いかった。
彼女が食べていたアイスを「食べる?」と差し出してくれたのに、
小学生ながら変な事を気にして断った事は、
立派なヤローになった今では人生最大の後悔だ。
遠足や、市の主催した宿泊学習なども可能な限り一緒にいた。
学校では自分の教室にいる時以外は、常に彼女を目で探していた。

僕がいたその小学校にはブラスバンド部があって、
県内の大会で入賞は当たり前というような「強い」部だった。
担当の指揮の男の先生がめちゃめちゃ怖く、
部活でも相当厳しいらしかった。
彼女はそのブラスバンド部に所属していてフルートを吹いていた。
全校集会などでは、しばしば演奏があったので
いつもとは違った感じの彼女を遠くから眺めていたものだった。

出会ってから1年半が過ぎ、
5年に上がる時にクラス替えがあったのだけど、
そのとき同じクラスになれなくて本当に落ち込んだ。
結局彼女とは一度も同じクラスになれなかった。
それでもまた、振り返ればたくさんの思い出を一つずつ経験しながら、
一年が過ぎようとしていた3学期の終わり、不幸は突然やってきた。
父親の転勤の知らせだった。
僕は本当にショックでとても悲しかった。
彼女と別れるのがたまらなく嫌だった。

ふと廊下で会った時、僕は彼女に転校することを告げた。
その時、彼女がどんな顔をしていたか覚えてない。
すれ違いにざまに言うような感じで自分からさらっと逃げた気がする。
それから彼女と会うことも無く、
あっというまに終業式が来て春休みに入ったと思う。
毎日悲しみと苦悩の日々だったけれど、
ある日思い切って彼女の家に電話した。
引越し先の住所と電話番号を教えるから、ということで会う約束をした。
このまま別れるのは絶対に嫌だった。

約束の日、彼女の家の前で連絡先を書いたメモを渡した。
特に何も無く、渡すだけ渡して逃げるようにすぐ帰った。
泣きそうになりながら自転車をこいで帰った。

きっと彼女は僕の気持ちに気づいていたと思うし、
自分の気持ちぐらい最後にちゃんと伝えればよかったと思うが、
できなかった。
結局この行為は、彼女も何か気持ちがあれば連絡をくれるだろう、
という逃げだったと思う。
完全に自分の立場だけに立った間接告白である。
ちなみに今日まで彼女からの連絡は無い。
全く僕のヘタレっぷりはこの頃からすでに現われている。

引越しの当日、荷物を全て業者のトラックに乗せた後、
僕たち一家は父親の運転する車に乗って、
もう二度と訪れる事はないでだろう土地を発った。
突然やってきて、わずか2年半を過ごした町だった。
元・自宅からどんどん離れていく。
親しんだ町並みを見ながら悲しみは更に増していく。

最悪に落ち込みながら車に乗っていると、
ふと前方に見慣れた姿があった。
なんとそれは犬の散歩をしている彼女だった!
僕は本当に驚いて、あわてて声をかけたくなったが、
窓は閉まっているし家族の手前恥ずかしかった。
無常にも車は彼女の横を通り過ぎ、僕は気づいてくれ!と目で追ったが、
フィルムが貼られたうちの車では無理だった。
すぐそばで、極めて普通の表情をしている彼女を見た。
悔しいというか歯がゆいというか、とても辛かった。
どんどん小さくなっていく彼女を最後まで見て、
改めて今までの思い出が走馬灯のように蘇った。
あまりに出来すぎたラストシーンに力が抜け、
カーステレオからは、Mr.Childrenの「名もなき詩」が流れていた。





そうして僕は人生最高の時期を終えて、
怒涛の暗黒時代(目下、進行中?)に突入するのである。

彼女とは絶対に、二度と会うことは無いだろう。
だからこそ死ぬほど会いたいという気持ちに時折悩まされる。
当時思っていたことや、
別れてから思ったことを全て聞いてほしいという衝動に駆られる。

2004/10/03

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