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絶望の髭

私は自分の容姿が嫌いでたまらない。
理由はいくつかあるが その中でも大きなウェイトを占めているのが「ヒゲ」だ。
私は体毛が濃く、同様にヒゲも濃い。
小学生の頃から脛や腕の毛が多いなという自覚はあった。
中学生の頃になると人よりももみあげの部分がしっかり生えることが気になり、
更には顎の付け根あたりにも強く毛が生えてくることを自覚した。
小学生の高学年以降、私は半袖短パンの体操服になることが苦痛であった。
だから私は外出などの人目に触れる際に
ハーフパンツ等を穿くことは決してない。
夏場にサンダル・ハーフパンツで歩いてる奴がうらやましい。
そういう少年時代を過ごしてきた私だが、重苦はもう一つ用意されていた。
高校に入るとヒゲが生えてきたのだ。
気がついたときにはもう私は毎朝髭を剃らなくてはならなかった。
この髭は今まで毛の悩みに輪をかけて重いものであった。
それはやはり「顔」に関わるからである。

まず私の髭の濃さはハンパではなかった。
どんな方法で剃っても、剃りきるということができず、
顎に手をあてればザラザラした皮膚がそこにはある。
少しでも「念入り」に剃ろうものなら、私の顎には血が滲んだ。
毛穴が傷ついたようなプチプチとした出血をし、
さまざまな方向から剃ろうとしてできた直線の切り傷ができる。
洗面後にはカミソリによって剥離し散り散りになった皮膚が、
粉を吹いた乾燥肌のように浮く。
剃りきれない髭の残骸が顎のラインを埋め尽くしている。
正面から見据えた洗面台の鏡では一瞬わからなかったが、
それらがあいまって、
手鏡を使って自分の顔を真横から見たときのその醜さ。
私は絶望した。
肌色の上に不衛生なカビが生えたような皮膚。
その上に傷と血が散在し、白い粒子状の剥がれた皮。

私はあがいた。
カミソリの使い方が悪いだけではないのか。
その他に加えるべき手順。専用のシェービングフォーム。
しかしそれらは全く私の問題を解決しなかった。
決定的だったのは床屋の狼狽だった。
何度も何度も当てられる刃。何度も何度も塗られる「潤滑剤」。
もう一度乗せられる蒸しタオル。皮膚を痛覚だけが覆っていく。
その不幸な理容師はアフターローションとクリームをどっさりと塗り、
仕事を終えた。
なでる風さえにさえ痛みを伴いながら私は帰宅し、
鏡で確認して愕然とした。
血は滲み、死んだ白い「皮膚だった」ものがボロボロにこびりついた自分の顔に。
職人でさえ処置の出来ない私の髭に。

私は人前に出るのが嫌だった。
私は人に見られることが苦痛だった。
髭について指摘されるのが嫌だった。
「髭剃れよ」と言われた時には、今すぐ消えてしまいという羞恥と同時に
その言葉を発した相手を殺したいと思うほどの憎悪を抱いた。
朝は必ずやってきた。毎朝自分の姿に絶望する。
毎朝うらめしい気持ちになる。毎朝惨めな気持ちになる。
毎朝嫌悪が蓄積する。毎朝憎悪が肥大する。
私は土日も部活で学校へ行っていたから、それが一年で300日以上。
文化祭を泊まりこんで準備するときにも、私は逃げるように帰った。
盛り上がってこのまま友人宅へ泊まろうということになったときも私は帰った。

これらは今でも続いている。これからも続く。
私の精神がどういうものか、一つの側面からここに記す。

2005/09/12

ac